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「認知的不協和」とは?具体例で自己矛盾の心理をわかりやすく解説!【社会心理学】

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認知的不協和とは、人が矛盾するふたつの事実を同時に抱えている状態、または、その状態による不快感を表した社会心理学用語です。
アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱されました。
認知的不協和を抱えた人は、どうにかして不快感を軽減して心の安定を保ちたいという心理が働きます。

認知的不協和とは?

認知的不協和(にんちてきふきょうわ)とは、人が矛盾するふたつの事実を同時に抱えている状態、または、その状態による不快感を表した社会心理学用語です。
アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱されました。
漠然としていてわかりづらいですが、具体的にどのようなことを指すのか、詳しく見ていきましょう。

日常にある認知的不協和

認知的不協和は、日常の様々な場面で発生しうるものです。
日常的によく起こる認知的不協和には、以下のようなものがあげられます。

  • 煙草を吸いたいが、煙草は健康によくないので辞めたい
  • ダイエット中で食事を制限したいが、甘いものが食べたい
  • 人気の飲食店に長時間並んだのにご飯がおいしくなかった

「どうしても煙草を吸いたい」という気持ちと、「煙草は体に悪いのでやめたい」という気持ち、など、人間は日常の中で自分の中に矛盾する感覚が生じます。
この葛藤を抱えている状態は、不快感やストレスを感じますよね。

この自分の認識と矛盾した感覚・認知による、強い葛藤やストレス、不快感を認知的不協和といいます。

すっぱいブドウで見る認知的不協和の解消

人間の心は、気持ちと行動が一致していないと、不快感を感じるようにできています。
そのため、認知的不協和を抱えた人は、どうにかして不快感を軽減させて心の安定を保とうという心理が働きます。

そこで、自分の認知を変えて正当化することで、認知的不協和によるストレスを和らげようとするのです。
アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーは、この認知的不協和の正当化を、「認知的不協和理論」として提唱しました。

認知的不協和による正当化のわかりやすい例として、よく出されるのがイソップ童話の「すっぱい葡萄」です。

イソップ童話「すっぱいブドウ」

おなかがすいた狐が、食べごろでおいしそうなブドウが実った木を見つけました。ブドウを食べたいと思った狐ですが、ブドウは木の高い所に実っています。
狐は、ブドウを取ろうと必死に飛び跳ねますが、何度やっても届きそうにありません。しばらくすると狐は、
「こんなブドウ、すっぱくて美味しくないに決まってる。誰が食べるものか」
とつぶやいて、ブドウを食べることは諦めて立ち去りました。

この話は、狐が自らの能力の低さを正当化した「負け惜しみ」の話として有名です。
この負け惜しみの心理は、認知的不協和理論で説明ができます。

この話の中で、「ブドウを食べたい」という気持ちと「ブドウを食べられない」という矛盾で、認知的不協和を起こします。
そこで、その認知的不協和を解決するために、「あのブドウはすっぱいに違いない」と、自分の考えを変えて自分の行動を正当化したのです。

認知的不協和の解消パターン:脱価値化

認知的不協和の解消のパターンの一つに、「脱価値化」があります。
先ほどの狐は、この「脱価値化」により認知的不協和を解消しました。

狐は最初、以下のような認知の矛盾を抱えていました。

認知1 美味しそうなブドウを食べたい
認知2 ブドウに届かなくて食べられない

この自分の気持ち自分が置かれている現実の認知的不協和は、狐にとって不愉快な状況です。
そのため、キツネは「自分の気持ち」の認知を以下のように変更します。

認知1 すっぱそうでおいしくないブドウは食べなくていい
認知2 ブドウに届かなくて食べられない

このように、「自分の気持ち」の認知を変更し、自分にとってのブドウの価値を下げるたのです。
これにより、「ブドウが食べられない」という状況を正当化されました。

価値を下げることで認知のバランスをとり、認知的不協和を解消したのです。

認知的不協和の解消パターン:価値の付与

認知的不協和のもう一つの解消パターンに、「価値の付与」があります。

先ほどのキツネは、価値を下げることで、認知の釣り合いをとりました。
反対に、いずれかの認知に価値を付与することで、認知の矛盾を解消することもあるのです。

例えば、冒頭の例に挙げた「煙草を吸いたいが、煙草は健康によくないので辞めたい」という認知的不協和を見てみましょう。

認知1 どうしても煙草を吸いたい
認知2 健康のために煙草を辞めたい

煙草を吸いたいという強い気持ちと、自分の健康という矛盾の中で、強い葛藤が生まれた状態です。
健康やお金のことを考えたら、煙草は辞めたほうがいいでしょう。

この際、認知的不協和が起きている状態で決断をするために、どちらかに認知を傾けようとします。
そこでよく行われるのが、認知に「価値を付与」する行為です。

認知1 どうしても煙草を吸いたい
認知1 煙草を吸うと落ち着く
認知1 喫煙所で交友関係が広がる
認知1 煙草を吸わないと酒を飲んでしまう
認知2 健康のために煙草を辞めたい

このように、「煙草を吸う」認知に価値を付与し、煙草を吸う理由を増やすことで認知的不協和を解決することが可能です。

もちろん、ここで「煙草を吸う」「煙草を辞める」のどちらに価値を付与するかは、本人次第です。
しかし、往々にして人は自分の気持ちを優先した方向に認知を傾けようとするものです。

様々な場面で使われる認知的不協和

人間は、認知的不協和が起こると解消しようとします。
そのため、認知的不協和が解消されるようなキャッチフレーズや状況に心が動かされやすいのです。

ビジネスの場面で使われる認知的不協和

この心理は、ビジネスや人間関係の場面でもよく使用されます。

  • 「英語をしゃべれるようになりたい」:「英語の勉強の時間が取れない」
    →短時間で英語が喋れるようになる本
  • 「ダイエットしたい」:「甘いものが食べたい」
    →食べても太りにくいカロリーオフのケーキ

このように、購買者が抱える認知的不協和を解決するようなフレーズをつけることで、より購買意欲を高める効果があります。

人間関係における認知的不協和の解決

また、人間関係においても認知的不協和を無意識に解消しようとする心理が働くことがあります。

あまり仲良くない人と、会話や共同作業などの接点がないにも関わらず、長時間一緒にいたとしましょう。

すると、「好きでもない人と長時間一緒にいる」という認知的不協和が生じます。

そこで認知的不協和を解消するために、「長時間一緒にいるので仲良くなった」「この人が好きだから長時間一緒にいる」など、自分が納得できる状態にしようという心理が働きます。
この認知的不協和の解消の心理から、無意識にその人に対し好意的な印象を持つようになるのです。

まとめ

人間は、無意識にストレスを避けるようにできています。
そのため、認知的不協和が起きた際に、自分でも気が付かないうちに、自認識や行動を都合のいいように捉えなおして修正しようとするのです。

もちろん、この心理は悪いことばかりではありませんが、認知的不協和を解消しようとしすぎるあまり、物事を正しく見ることができなくなってしまうこともあります。

認知的不協和理論を意識して、自分の考えが偏ったものになっていないか、見つめ直せるようにしましょう。