思考実験「テセウスの船」とは?答えの例も紹介【わかりやすく解説】

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「テセウスの船」とは、ある物体を構成しているパーツがすべて入れ替わってしまっても、全く同じものであると言えるのかを問う、アイデンティティの思考実験です。
ローマ帝国時代の歴史家・プルタルコスによって提唱されたといわれています。
何をもって「同じ」と考えるかという、アイデンティティのとらえ方によって、回答が異なってくる問題でもあります。

人間の細胞は日々生まれ変わっています。
肌の細胞であれば、約一か月ですべてが入れ替わるのだそうです。

こうして生まれ変わっていたあなたの身体は果たして過去と全く同じといえるでしょうか?

テセウスの船は、物事を構成する物質が入れ替わったとしても、入れ替わる前と全く同じなのかどうかという、アイデンティティ(同一性)を問うパラドックスです。

テセウスの船とは?

テセウスの船は、ローマ帝国時代の歴史家、プルタルコスが投げかけた思考実験です。
ギリシャの伝説を由来とし、様々なバリエーションがありますが、特に有名な以下のバージョンを紹介します。

思考実験「テセウスの船」

昔、テセウスが乗ったという有名な船、「テセウスの船」が保管されていました。
テセウスの船は時とともに老朽化し、腐った部品は新しい部品へ修理・交換がくり返されてきました。

船の老朽化とともに、船は少しずつ新しい部品に入れ替わっていきます。
その結果、いつしか元のテセウスの船の部品は一つもなくなり、全てが新しい部品になっていたのです。

船の形や機能はテセウスが乗っていた当時の船とまったく変わらないように修理されています。
しかし、元々の「テセウスの船」の部品や塗装はもはや一つも残っていないのです。

はたして、この船は「テセウスの船」と呼べるのでしょうか?

身近なテセウスの船のパラドックス

「テセウスの船」のような出来事は、私たちの身近な物事でも起こります。
いくつか例を挙げてみましょう。

  • メンバーが全員入れ替わったアイドルグループ
  • つぎ足しをずっと続けている秘伝のタレ
  • 過去に全焼し復元された歴史的建築物

繰り返し修繕や改善を重ねていくことは悪いことではありません。

アイドルグループのメンバーが入れ替わっても応援を続けている人も多いでしょう。
つぎ足しを続けてきたタレも、「創業当初の味」と味が守られています。
何度も修復された歴史的建築物も、歴史的な遺産として愛されています。

しかし、こうした物事を改めて考えると、過去と現在で全く同じものだと言えるかどうか、疑問に思いませんか?

物事を継続して保管したり守っていくためには、当然修繕や改善が必要です。
しかし、修繕や改善を加えた結果、本来守ろうとしていたモノが全く変わってしまう、という矛盾が生じることがあるのです。

このような、世間一般的には正しいと認識されているものごとに対する反対の主張や概念、もしくは正しいように見えるが正しいと認識できない説をパラドックスといいます。
テセウスの船はパラドックスの1種で、「テセウスのパラドックス」といわれることもあります。



テセウスの船の答え!様々な視点からの回答例

さて、すべてが入れ替わったテセウスの船は、はたして本当に過去のものと同じなのでしょうか?
これに対しての答えは、何をもって同じとするか、何が物事の本質か、という価値観の違いによって大きく異なるでしょう。

実際に、以下のような様々な視点での回答がでています。

アリストテレスは全ての事物の在り方は質量因・形相因・動力因・目的因の四原因で説明できると考えました。

四原因を簡単に説明すると、以下の通りです。

質量因
何でできているか
形相因
どんな形をしているか
動力因
誰がどのように作ったか
目的因
何のために作ったかか

アリストテレスは、「テセウスの船」で重要なのは、ある事物が「どんな形をしているか」を決める形相因としています。

形相因は、物体の見た目を示します。
テセウスの船は修繕を重ねたものの、見た目は変わらないため、同一といえるというのがアリストテレスの結論です。

ついでに、四原因の他の要素でも当てはめて考えてみましょう。

素材を示す質量因から見ると、船の部品は最初のものから取り換えられ、別の素材が使われているため、同一ではないと言えます。
しかし、作られる成り立ちを示す動力因から見ると、船は当初と同じように同じ技法で作り直されたと考えられるため、同一であると言えます。
さらに、物事の目的を示す目的因もから見ても、船として認識できることに加え、テセウスが使用したという事実は変わらないため、同一であると考えることができます。

「どのような在り方か」を分解して考え、「どの在り方が重要か」のとらえ方によって、テセウスの船の答えは異なってくるのです。

「同じ」の定義・質か数か

「同じ」とは何をもって同じであるといえるのか、という点から考えてみましょう。
同じという概念は「質的」と「数的」の2つに分けられます。

「同じ」の概念で数と質のどちらを重要視するかで、テセウスの船の結論は異なってきます。

「テセウスの船」は、徐々に部品交換され「質的」に変わってしまっています。
しかし、「テセウスの船」と呼ばれ続けた船は当時から現在までその1隻しかなく、「数的」には同一のものといえます。

つまり、テセウスの船は修繕前と後で「質的には違うものだが、数的には同じもの」といえるのです。

あなたは質と数、どちらのアイデンティティを重視しますか?

時系列で考える!4次元主義

では、時系列から「テセウスの船」を考えてみましょう。

この船は修理を重ね、パーツが入れ替わって行っても、過去から現在のどの時点においてもテセウスの船としてあり続けました。
仮にテセウスの船でないと言うなら、一体どの時点からテセウスの船でなくなったのでしょう?

空間的な広がりである3次元に対し、4次元は時間的な広がりを示す言葉です。

一瞬一瞬の時間を「区切って」考えた時(これをタイムスライスと言う)、一つ前のテセウスの船は一つ後のテセウスの船とは別物になります。

この場合、パーツの入れ替えに関係なく、一瞬前と今のテセウスの船は全くの別物と考えます。

なぜなら1秒の差であっても厳密に言えば質は古くなっているからです。

しかし、一連のタイムスライスを「まとめて」考えれば、最初から現在まで「テセウスの船」としてずっとあり続けているため、パーツが入れ替わっていても同一のものということになります。

価値から考える

例えばあなたが目的地に行くために、9時に出発して、10時につく船に乗ると仮定します。

その船の乗客・航路・見た目が違っていても、発着時間と到着する港さえ同じなら、どの船が来ても同じ「船」と認識し、乗船しますよね?

この考えでいくと、テセウスの船もパーツが入れ替わったとしても、「テセウスの船」としてパーツを入れ替える前と同じように保管され、使用されているのであれば、同じものである、という結論になります。

このような、物事の仕組みや構造を考え、本質をとらえようとする考えは、構造主義と呼ばれることがあります。

まとめ

変化していくもののどこに価値を見出しているか、何をもって物事を定義するか、様々な考えがあります。

あなたは、テセウスの船をどう考えますか?

この世の全ての物は常に変化しています。

物事を多方面から考える力は、ビジネスや勉強、コミュニケーションなど人生のさまざまな場面で役立つこと間違いありません。

ぜひ、自分の答えを探してみてください。