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世界は「水槽の脳」が見ている夢?胡蝶の夢とは【思考実験をわかりやすく解説】

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水槽の脳」は、1982年にアメリカの哲学者、ヒラリー・パトナムによって提唱された思考実験です。
「もしこの世界がコンピューターによって見せられている仮想世界だったら?」と仮定し、正しい知識や人間の意識を把握することの難しさを提唱しています。

思考実験「水槽の脳」とは?

昨今、仮想現実(VR)という言葉を耳にする機会も増えました。
VRと聞くと、ゲームや映画をイメージする人が多いのではないでしょうか。

しかし、今私たちが存在している現実が、まさしくVRのような仮想現実だとしたらどうしますか?

水槽の脳」は、「私たちが今見ている世界も仮想現実なのではないか?」と疑うことから、人間の意識や物事の実在性を考える、以下のような内容の思考実験です。

思考実験「水槽の脳」

科学者がある人間の脳を丸ごと取り出し、脳が死滅しない特殊な液体に浸して水槽で保管しました。

そして、その脳をコンピューターにつなぎ、脳が「普通の生活を送っている」と感じるように電気信号を送ります。

すると、コンピューターに操作されたとおりに、脳は現実となんら変わりない仮想現実を見ることができます。

例えば、ご飯を食べたり、家族と話したり、空を見たり、仕事をしたり、…そういった日常生活を送っていると脳で判断している、という状態です。

現実に存在している私たちも、実際にはこのような水槽の脳が見ている仮想現実にすぎないとしたらどうしますか?

実際のあなたは肉体などすでに無くなっていて、あなたが感じていることはすべて水槽にある脳が感じているものなのかもしれません。

あなたが水槽の脳だとしたら

水槽の脳」は、1982年にアメリカの哲学者、ヒラリー・パトナムによって提唱された思考実験です。

現実味のない思考実験ですが、この仮説を論理的に否定することをできますか?
もしかしたら、あなた自身が水槽の脳かもしれません。
あなたが感じていること、考えていることは、水槽の脳がコンピューターから送られている電気信号であれば、どれだけ否定してもその意見も「ただの電気信号」にすぎないでしょう。

また、本当にこの世界が水槽の脳が見ているものだったら、それに気づくことはできますか?
「自分が水槽の脳かもしれない」と疑問に思っても、それを証明することはできません。
脳は水槽から出ることもできず、コンピューターによって見せられている仮想現実を見続けることしかできないからです。

考えれば考えるほど、ゾッとしてしますような思考実験ですね。
それでは、提唱者パトナムの結論を見ながら、この思考実験の結論や内容を詳しく見ていきましょう。

水槽の脳の目的とは?実在論への反論

水槽の脳を提唱した哲学者・パトナムは、実在論への反論としてこの思考実験を提示しました。

実在論は簡単にいうと、ありとあらゆる物事はすべて客観的に「正しい形」として確実に存在しているとする考え方です。
客観的に正しい本当の世界・正しい本当の形というものが存在し、人間はそこからデータを得て世界を捉えている、というのが実在論における「世界の在り方」です。

パトナムは、この思考実験において私たち人間は水槽の中の脳を見ることができないと結論づけています。

水槽の脳では、「この世界は水槽の脳が見ている世界だ」として気づいたとしても、その認識すらもコンピューターが与えたものであり、「水槽の脳」そのものの存在を確かめる方法はありません。

実在論では、物事が確実に存在していることを前提として考えます。
それに対しこの思考実験では、そうした「客観性」や「確実」というものを確かめる方法はない、ということが示されています。

人間は本当の世界に気が付けない?

仮に私たちが見ている世界が仮想現実だと気付き、本物の現実世界の存在を認知しても、「その事実に気付いた自分」もまたコンピューターで脳を操作されているだけかもしれません。

結局、全ては合わせ鏡のように終わりがなく、「何が本物の現実なのか?」を知る手段はありません。
私たちは永遠に「今いる世界が仮想現実かもしれない」という疑念を拭うことができないのです。

類似問題・胡蝶の夢

「水槽の脳」のように、実在性や人間の意識についての議論は、様々な形で成されています。

似たような問題のひとつに、古代中国の思想家・壮士の説話、「胡蝶の夢」があります。

胡蝶の夢
夢の中で胡蝶(蝶)となり、ひらひらと飛んでいた。
自分が人間であるという意識は全くなく、胡蝶として心のままに飛んでいたら、はっと目が覚め自分が人間であることに気がついた。さて、自分は蝶になった夢をみていたのか、それとも本当の自分の姿は胡蝶であり、今は人間になった夢を見ているのか…。

それを確かめる方法はないが、胡蝶であれ人間であれ、どんなに形が変化しようが「自分である」という認識は同じであり、本質は何ら変わりない。

壮士は、人間の知性・意識には何一つ確かなものは無いとし、実在性にとらわれることなく受け入れることが重要であると説いています。

「水槽の脳」は、「もし自分の見ている世界がすべて幻想だったら」という少しゾッとしてしまうような内容ですが、
胡蝶の夢に当てはめて考えれば、見えている世界が水槽の脳が見ている夢だとしても、自分の見えているものをあるがままに受け止めることが大切なのかもしれません。

まとめ

これは現実か夢か、本当の世界はここではないどこかにあるのではないか、といったテーマは、「マトリックス」や「インセプション」など、映画などても多く取り扱われます。

近い未来、技術が進み、本当に水槽の脳のようにVRを本当の世界だと認識して生活することも可能かもしれません。

もしかしたらすでに仮想世界に居るのかも……。
物理的には説明できない、意識の世界について自分なりの考えを巡らせてみてはいかがでしょうか。