「ヘンペルのカラス」はなぜおかしいのか。わかりやすく解説!【思考実験・パラドックス】

ヘンペルのカラス
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ヘンペルのカラスとは、思考法の一つである帰納法が抱える問題を考える思考実験です。「カラスのパラドックス」ともいわれていて、ドイツの哲学者カール・グスタフ・ヘンペルが提唱しました。この記事では、カラスのパラドックスによって何がわかるのか詳しく解説していきます。

ヘンペルのカラスとは?

ヘンペルのカラスとは、思考法の一つである帰納法が抱える問題を考える思考実験です。
「カラスのパラドックス」ともいわれていて、ドイツの哲学者カール・グスタフ・ヘンペルが提唱しました。

ヘンペルは、帰納法「カラスは黒い」という問題について対偶論法を使って考えると、矛盾が生じるということと

ヘンペルのカラス:「カラスは全て黒いのか」

カラスの色は何色か、と問われれば、大半の人は黒だと答えるでしょう。
では、「地球上のカラスが全て黒い」ことを証明できるでしょうか?そこで、帰納法の一種である対偶論法を使って、「すべてのカラスは黒い」を証明してみましょう。

対偶論法で「カラスは黒い」を証明する

対偶とは高校数学で習う用語です。
「○○ならば△△」という文の○○と△△を逆にして、各々を否定したものが対偶です。
「○○ならば△△」の待遇は、「△△でないならば〇〇ではない」になります。

命題が「カラスであるならば黒い」であれば、対偶は、「黒色でないならば、カラスではない」になります。

 

対偶論法では、「命題と対偶の真偽」は必ず同じになります。
つまり、カラスが黒色だと断言するには、対偶である「黒色でないならば、カラスではない」が真実であると証明できればよいのです。

そのため、以下のように調査していきます。

  • リンゴ→リンゴは黒くないし、カラスでもない
  • 桜→桜は黒くないし、カラスでもない
  • 星→星は黒くないし、カラスでもない

こうしてこの世にある全ての「黒くないもの」を調査し、その中にカラスが存在しないことがわかりました。
これにより「全ての黒くないものが、カラスではない」が真実だと証明されたとしましょう。

対偶論法に則ると「黒色でないならば、カラスではない」が真実なので、命題である「カラスであるならば黒い」も真実だと論理的に証明されたことになるのです。

理論的には問題のない答えだとしても、なんだかおかしいと感じませんでしたか?
この違和感を考えることが、ヘンペルのカラスの目的なのです。

ヘンペルのカラスを考察しよう!

なぜ私たちは直感的にこの理論をおかしいと思ってしまうのでしょうか?

調査対象が広すぎる

違和感の理由のひとつは、調査対象の「黒くないもの」が不確かでスケールが大きすぎることが挙げられます。

帰納法で導き出す結論は、全事例を調査しない限り、100%確実な結論ではなく、ある程度の確率をもった結論にしかなりません。

「この世の全ての黒くないもの」を調べるという方法は、調査対象が多すぎて、非現実的で不可能に近い方法です。
つまり、現実でこの方法により出せる結論は、「カラスは黒い確率が高い」という可能性の範囲を超えない結論になるのです。

このように、ヘンペルは帰納法の問題を「カラスは黒い」という身近な問題に当てはめて考えることで、帰納法で導き出せる結論の限界が分かりやすくしたのです。

カラスの存在を証明できていない

違和感の要因の一つは、存在証明できていない点にあります。

この証明方法では、調査対象であるはずのカラスが全く関与しないまま証明が完了してしまいます。
カラスが黒いことを証明するのに、カラスを一切調べることなく結論付けてしまうのは、違和感がありますよね。

確かに「黒くないものの中にカラスが存在しなかった」ということは、「カラスは黒い」ということの根拠の一つにはなります。
しかし、カラスを観測せず、カラスの前提が曖昧なため、「カラスの存在そのもの」の証明ができていません。

「黒くないものの中にカラスが存在しなかった」という事実は、「カラスが存在しない」という可能もが含まれています。

カラスの例えを、架空の生物に変えてみるとわかりやすいでしょう。

  • 羽が無い生き物の中にユニコーンがいなかったので、ユニコーンは羽がある
  • 鼻が長くない生き物の中に天狗がいなかったので、天狗は鼻が長い

どうでしょうか、ユニコーンや天狗の存在を認識しないまま、姿形が決定できてしまいます。

このように、この調査方法では「そもそもカラスが存在するかどうか」という大前提が証明されていないのです。
不確かな条件の命題では、その対偶の真偽もあいまいなものになってしまうのです。

白色のカラスもいる

視点は変わりますが、実際の現実では、アルビノや白変種といった白色のカラスが観測されています。
つまり、「全てのカラスは黒い」という命題は現実では誤りだと明らかになっているのです。

対偶論法に従い、世界中の「黒くないもの」を順番に調べていけば、いつかは「黒くない」カラス(アルビノや白変種のカラス)に出会い、命題が誤りだということが明らかになるでしょう。

「全てのカラスは黒い」という命題が誤りであることはイコール「黒くないものはカラスでない」という対偶も誤りであることに繋がります。

疑似パラドックスからくる違和感

ヘンペルのカラスのように、本質的には正しいが矛盾を感じさせるパラドックスは、疑似パラドックスと言います。

少し難解にも感じたかもしれませんが、ようするに自分なりに思考を楽しめばよいのです。
思考実験「ヘンペルのカラス」で、この矛盾をはらんでいるようではらんでいない不思議な感覚に耽り、物事を考える際の参考にしてみてはいかがでしょうか。