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「ラプラスの悪魔」とは?未来がわかる悪魔をわかりやすく解説【決定論と量子学】

ラプラスの悪魔 解説
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「ラプラスの悪魔」とは量子学における決定論をわかりやすく伝えるために例えられた、「この世の全てを知っているため、未来も予見できる超越的な知性を持つ存在」のことです。
17世紀にフランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラスによって提唱されました。この記事では、「ラプラスの悪魔」の提唱からわかりやすく解説します。

ラプラスの悪魔とは?

ラプラスの悪魔は、フランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラスが述べた、「この世全てを知っているため、未来を全て予測できる存在」の概念、架空の存在のことです。
現代では、「全知全能の存在」や「未来はすでに決まっている」という事象を指す言葉としても小説やアニメなどで使用されることもあります。

「ラプラスの悪魔」は、近世・近代の物理学における「決定論」の考えをわかりやすくするために例えられた架空の存在で、実際に存在する、と考えられていたわけではありません。

では、ラプラスの悪魔はどのような目的で使用された例えだったのでしょうか。
詳しく解説するにあたって、まずは、ラプラスの悪魔が提唱された背景に注目します。

ラプラスの悪魔誕生の背景

ラプラスの悪魔の誕生に関しては、近世・近代の物理学が関係しています。
物理学とは、簡単に言えば自然界の物質や現象のエネルギーについて考える学問のことです。

ニュートン力学の誕生

17世紀にニュートン力学という物理学の一種が誕生しました。

ニュートン力学では「全ての物体の運動は、その物体の位置と物体にかかる力を正確に測れば知ることができる」とされています。
例えば、「ボールを転がす時、ボールの出発点とボールにかける力がわかれば、ボールがどこに移動するか転がす前から予測できる」ということです。

この考えが発展し、「全ての出来事は、過去の出来事によって既に決定されている」という決定論の考えが生まれました。

決定論の考え方の例:未来がすべて見えてくる?

決定論の考えでは、未来を予測するのに以下の二つが必要になります。
決定論の考えでは、未来を予測するのに以下の二つが必要になります。

  1. 物体の位置や運動量などの情報
  2. 情報の計算

先ほどのボールの例でいえば、まずボールの重さや位置、ボールにかかる運動量・摩擦力、また、転がす際の風や湿度など、ボールを転がす際に関わる全ての情報の正確な数値を出します。
そして、これらの数値から正確な計算をすれば、ボールがどのように移動していくか、正確な未来がわかる、ということです。

突き詰めれば、「あらゆる物質の情報」と「超高度な計算能力」があれば、この世界全ての物事の未来が予測できることになります。

ラプラスの仮説:超越的な知性を持つ存在

この「情報と計算で未来は導き出せる」という決定論の考えをわかりやすく伝えるために提唱されたのが、「ラプラスの悪魔」です。
フランスの数学者、ピエール=シモン・ラプラスは決定論の概念を説明する際に、以下のように主張しました。

もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知ることができ、かつもしもそれらのデータを解析できるだけの能力をもつ知性が存在するとすれば、この知性にとっては、不確実なことは何もなくなり、その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう。

『確率の解析的理論』(1812)より

簡単に言うと「この世の存在の全ての情報を知り、それを解析できる知性をもった超越的な存在がいたら、その存在は未来を完璧に見通すことができる」という内容です。
ラプラスは、超越的な知性を持つ存在の実在性を主張しかったのではなく、決定論をわかりやすく説明するために、極端な例として考察しました。

この存在のことを、提唱者のピエール=シモン・ラプラスの名前から「ラプラスの悪魔」と呼ぶようになりました。
ラプラスの自著では、この超越的な存在は観念的に「知性」と表現していますが、のちに「霊」と呼ばれ、それが徐々に「悪魔」として変化し「ラプラスの悪魔」として広まったのです。

決定論を身近な例で考える

上記の通り、決定論の考えでは現在もしくは過去に起こった出来事によって、未来を予測できます。
言い換えれば、過去の出来事によって既に未来は決定しているということです。

例えば、あなたがケーキを食べたとします。

  • ケーキを食べたのは、甘いものが食べたかったから
  • 甘いものを食べたかったのは、疲れていたから
  • 疲れていたのは、仕事をしたから……

と、このように理由を考えていくと、ケーキを食べることは過去の出来事によって決まっていたとわかります。

あなたはケーキを自分の意志で食べたように思えますが、実際にはあなたがケーキを食べることは、過去の出来事により既に決まっていたことなのです。
極論、あらゆる物事は何らかの原因があり、それによって全て決定していて、不確定要素や自由意志などはないと言えます。

理論上は正しく思えるこの考え方ですが、実は決定論の考え方は20世紀ごろには否定されるようになります。

ラプラスの悪魔は実在不可能?

原因がわかっていれば正しい結果が見えてくる、というのは感覚的にも理解しやすく、一見正しいように思えますね。
しかし、決定論の考えは、20世紀に誕生した量子力学によって否定されています。

量子力学の台頭


20世紀、量子力学という分子や原子などミクロの世界に関する物理学が登場します。

量子力学の考えの一つでは、原子などのミクロの物質には完全にランダムで変化するものもあり、その未来は確率的にしか決めることが出来ないとされています。
また、物質の運動量や位置、エネルギーなど物理量の測定値は揺らいでいて不確定であり、全く正しい数値を知ることは出来ないとわかりました。

そのため、「全ての物質の正確な位置と運動量を厳密に把握することは不可能」なのです。

極端に言えば、過去や現在の物質は不確定であり、その未来を予想しても微妙な誤差が出てきます。
つまり、ミクロの世界で見ると、未来は完全にランダムで、不確定な場合があるということになります。

過去や現在の物事が不確定である以上、未来も不確定で決定していないものであるといえます。
このことから、「過去によって未来が決定されている」と考える決定論には矛盾が生じるということなのです。

ラプラスの悪魔は未来を知ることができない?

量子力学によって、どれだけ詳細な知識があっても、全く予想できないことがあると証明されました。
そのため、ラプラスの悪魔がいたとしても、観測できるのは「既に決まった未来全て」ではなく「未来の可能性の全て」が限界ということになります。

これに従い、ニュートン力学を含む古典物理学には一部矛盾が伴うと考えられ、その結果、ラプラスの悪魔も否定されるようになりました。