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「モラトリアム」の意味とは?具体例でわかりやすく解説!【発達心理学】

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心理学の用語としてのモラトリアムは、「人が成人して、社会人として働くまでの猶予期・あるいはその状態」を指します。
日本ではネガティブな意味で使用されることが多いですが、本来の意味では、社会を出る前に自分自身を見つめ直し、自己を確立させるための期間を表しています。

モラトリアムの意味は?

モラトリアム(moratorium)とは、もともとは経済用語であり、直訳では「政府による一時停止」という意味です。
大規模な災害や戦争など、国民の経済状況が大ダメージを受ける状況下で、借金の返済期限に猶予期間を設ける対策のことを指します。

一方、心理学の用語としてのモラトリアムは、「人が成人して、社会人として働くまでの猶予期・あるいはその状態」を指し、心理社会的モラトリアムとも言われます。

日本では、心理学用語としてのモラトリアムが使用されることが多いです。
この記事では、心理学用語としてのモラトリアムの意味について、詳しく解説していきます。

心理学用語としてのモラトリアム

心理学用語としてのモラトリアムは、1959年に発達心理学者のエリク・H・エリクソンによって提唱されました。
意味は、「人が、大人として社会に出るまでの猶予期間」を表します。

提唱者であるエリクソンは、青年期の人間がアイデンティティを確立させ、社会に適応していくには一定の猶予期間が重要だとしました。
この期間は「モラトリアム期間」とも呼ばれ、自分という人間を知り、大人として社会に適応していくための準備期間として位置づけられています。

モラトリアム期間は、ただ勉強をしたり、遊んだりするだけの期間ではありません。
自分自身のアイデンティティを確立し、社会的責任を終えるように、他人や社会、そして自分自身との付き合い方を学ぶ重要な期間でもあります。

いわば、「社会に適応するための自分探し」の時間です。

モラトリアムはいつからいつまで?

モラトリアムに該当する年齢は人の心身の発達段階にによってそれぞれ異なります。

一般的には、子供から大人への移行期間を指すため、現代では10代後半から20代前半の青年期の人たちが該当します。
モラトリアムの期間に厳密な制限はないものの、多くの人が大学に進学するようになった日本では、大学や大学院に通っている間のことを指すことが多いです。

モラトリアム人間とモラトリアム症候群

本来であれば、自分の将来へ向けて、前向きに自分探しに取り組む時期を表す「モラトリアム」ですが、最近ではネガティブな意味でも頻繁に使われるようになりました。

自分で人生の責任を負わなくてはいけない年齢になっても、社会に属することを拒む、自分が興味のあることがわからない、そんな社会的な自己を持っていない人「モラトリアム人間」と表現することがあります。

例えば、心身が健康なのにもかかわらず「やりたいことが見つからない」などと言いながら、人生の決断を先延ばしにしている人。
また、就職をしても「自分のやりたいこととは違う」などとすぐに辞めてしまい、将来のビジョンを描かないまま職場を転々とする人。

こうした傾向のある人を、モラトリアム人間と呼びます。

モラトリアム人間は「自分に自信がない、頑張っても成長ができない」という人とは、性質が異なります。
自分の人生に対し責任を持ちたくない、一所懸命に働くのはかっこ悪い、など、社会や人生における当事者意識を持たない人のことを指すのです。

簡単にいうと、「心が未熟で決断ができないまま、体と年齢だけが大人になってしまった人」です。

また、モラトリアムの時期に、自分自身や社会に対して、過剰に高い理想像を掲げたり、反対に自己評価が低すぎたりすると、青年期の状態から先に進めなくなってしまいます。
自分自身に対して適切な自己評価ができないまま、社会に適合できなくなっってしまう状態を、「モラトリアム症候群」とも言います。

ピーターパン症候群

モラトリアム人間の状態に近いもので、「ピーターパン症候群(ピーターパンシンドローム)」という症状があります。
ピーターパン症候群は、大人といえる年齢に達しても、精神が大人になり切れない状態のことを指します。

正式な学術用語として認可された症候群ではありませんが、この症状で悩みを抱えている人も少なくありません。
男性に多く見られますが、女性の中にもこの状態で苦しんでいる人もいます。

大人になっても人間的に未熟で、自己中心的・依存的・反抗的などと子供のような性格と自意識のため、円滑な社会生活が困難な場合が多いです。

モラトリアムと正しく付き合う必要がある

日本では「モラトリアム人間」など否定的な意味でとらえられることが多いですが、モラトリアムは自分を成長させる大切な時期です。

最近では、SNSなどで世界中の様々なライフスタイルを目にすることができるようになりました。
それにより、他人と自分を比較しすぎてしまい「自分はこれでいいのだろうか」と、疑問を抱きモラトリアムが長引いてしまったり、大人でもモラトリアム期間に戻ってしまう人も少なくありません。

モラトリアムそのものは、人間にとって必要な期間であり、決して悪いことではありません。
いかにモラトリアムの期間を自分自身に活かせるか、正しくモラトリアムを脱することができるか、という点が重要になります。